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「………それれは、おやふみなさい……」
「はい。お休みなさい」
最後にもう一度頭を下げた千波は、門を開けるとふらふらと玄関へ向かって歩き始めた。
それがまるで漫画で見るようないかにも酔っ払いの歩き方で、陸は心配になってその後ろ姿を見守る。
(………大丈夫か?)
右へ左へ、蝶のようにヒラヒラと揺られながら、千波はようやく玄関へと到着した。
それでもバッグを開けてゴソゴソと、鍵を探すのに手間取っている。
三分ほどかけてようやく鍵を発見した千波は、なんとか自力でドアを開けた。
ゆっくりとした仕草ではあるが、家の中に入ってドアを閉めた千波を見て、陸はホッと息をついた。
(やれやれ。手間のかかる…)
苦い笑いを浮かべながら、さあ家に帰ろうとした陸だったが。
ふとあることに気付き、返しかけていた踵をピタリと止めた。
おもむろに、玄関のほうを振り返る。
(………電気……点かないな)
磨りガラスなので、玄関に電気が点けばここからでもわかるはずだ。
だが電気は点いておらず、空き家のように静まり返っている。
(確か若い時、酔って朝になったら玄関で寝てたとか言ってなかったか…?)
一度だけ飲みに行った時の千波との会話を思い出した陸は、急激に不安に襲われた。
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