2082人が本棚に入れています
本棚に追加
幸い部屋の窓から月明かりが差し込んでいて、部屋の内観を把握できる程には明るい。
(………もっと違う形で来たかったよ……)
好きな女性の部屋に初めて来たというのに、こんなにときめかない状況が果たしてあるだろうか。
内心で嘆きつつ、陸は窓の傍のベッドへと歩み寄った。
両手が塞がっていたので、行儀が悪いとは思いつつ陸は足で掛け布団を捲り上げた。
そうしてゆっくりと、千波の体をベッドに横たえさせた。
「……………っ」
ようやく重さと緊張から解放され、陸はぐったりと床に腰をつく。
陸の体から離れたことで寒くなったのか、千波は猫のように体を丸めた。
だが起きる気配はない。
布団を掛けてやろうとした陸は、ふと千波の体に目を留めた。
(………さすがに、コートやマフラーは外してあげなきゃな……)
スースーと寝息を立てている千波の首に巻かれたマフラーに、陸はそっと手をかけた。
起こさないように、そろりとそれを解いて引き抜く。
だが、問題はコートだ。
ある程度体を動かさないと、袖を引き抜くことができない。
「………………」
しばらく逡巡していた陸だったが、思い切って千波の体を抱き起こした。
最初のコメントを投稿しよう!