2082人が本棚に入れています
本棚に追加
「………わかってるんですか、千波さん。俺、千波さんのこと好きなんですよ」
「………………」
「そんな男の前で寝たら、襲われますよ」
答えがないとわかっていながら、陸は千波に話し掛けた。
……いや、わかっているからこそ、口にしたのかもしれない。
陸は髪に触れていた手を、そっと頬へと滑らせた。
酔って赤くなった頬が、月明かりに照らされている。
その確かな熱を肌に感じ、陸はそのまま指を唇へと這わせた。
初めて触れる、唇。
「………………」
そこで陸はハッと我に返り、慌てて千波から手を離した。
その手で口を覆い、横を向く。
(……やべ。……もう帰ろう。変な気おこしそうだ……)
なんとか理性を保てている間に早くここを立ち去らなければ、うっかり手を出してしまいそうだ。
はあっと大きく吐息してから、陸はベッドに手を付き立ち上がろうとした。
そこでハタとあることに気付く。
(………待てよ。……俺が帰ってから、誰が鍵閉めるんだ?)
立ち上がりかけていた陸は、ゆっくりと千波の顔を見下ろした。
最初のコメントを投稿しよう!