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千波はこんな状態なので、もちろん鍵を閉めにはこられない。
ということは、陸が家を出た後この家は施錠されていない状態になる。
(………大丈夫、だと思うけど)
平和な街ではあるが、五十嵐家の蔵の鍵は何度か壊されかけたことがあるそうで、泥棒が全くいないという訳ではないようだ。
「………………」
一晩ぐらい、大丈夫だとは思う。
だが、100%何も起こらないという保証もない。
軽いパニックに陥り、陸はガシガシと頭を掻きむしった。
(えーっ、ちょっと待ってくれよ。だからって俺が泊まる訳にはいかないし……)
そんなことをしたら、きっと初枝発信で明日には町中の噂になってしまうに違いない。
自分は別に構わないが、千波は肩身の狭い思いをするだろう。
第一、家に帰った時に友美に何を言われるか……。
そこで陸はハッと顔を上げた。
コートのポケットに入れていた携帯を取り出す。
(そうだ、友美さんに聞こう……)
はっきり言って今の自分では、正常な判断が下せない。
陸は五十嵐家に電話をかけながら、物音をたてないように部屋の外へ出た。
『はい。五十嵐でございます』
「……もしもし! 友美さんですか? 陸です!」
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