人並みと旅立ち

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 一応だが、武器屋の倅なので武器の種類や素材や丈夫かどうか、切れ味や重心の感じや、全体的な出来は分かるが、魔武器の事に関しては生来の才能のなさと触れ合う機会の少なさから詳しいとは言い難い。  この野太刀の分かることと言えば、魔法がかかっていなくとも、未完成であろうともそこらの武器や魔武器よりもはるかに出来がいい、一級品とも呼べるような逸品であることぐらいだろう。  親父から聞かされた知識だけで、見たことはないが、魔王とやらの討伐に使用された聖剣にも負けないのではないかと思わせる程である。 「しかも何か魔法がかかっているんだよな……」  色々と未完成の刀だが、ここまで完成された物はそう簡単には存在しないだろう。  未完成なのに完成という矛盾している感想に内心苦笑しながら野太刀の刀身を撫でたり、研がれていない刃を触れてみたりとその完成度を楽しむ。 「……シンスくん。大丈夫?」 「ん、ああすまん。あまりによく出来ていたものだから見入ってしまって」  たぶん、もうそろそろかな、馬車を停めてるっていう宿は。近くにある宿はあそこぐらいだし。  野太刀に集中しすぎて時が飛ばされたかのような感覚に陥る。 親父と違って武器が大好きみたいなことはないと思っていたんだが、やはり家庭環境というものがあるのか武器とかのことになると少し集中しすぎてしまう節がある。  まぁ……親父は本当は武器が性愛の対象なんじゃねえの?って思わせるほど武器を愛しているから明らかにそれよりはマシだが。
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