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坂井は何を見ているのか、ポケットに手を突っ込んで、賑わっているブースを遠目に見つめていた。
「あ……、えぇ、そうですね」
坂井を見ると、数日前の残業を思い出す。
背中に乗っかられただけで何かあったわけじゃないけれど、あのあと私は、その体勢のまま坂井の熱が治まるのを待たされたのだ。その時間は短いようで長かった。
坂井が呼吸する度、その胸の動きが背中に伝わってきて、徐々に坂井が迫ってきているかのような気分にもなった。
胸が高揚し、息苦しかった。
それを思い出すと、胸が大きな鼓動を打つのだ。
坂井の前でどんな顔をすればいいのか分からなくなるから、なるべく顔を合わせたくない。
「声は?かけなくていいのか?」
坂井の後ろを通り過ぎようとした時、川崎さんが足を止めた。
「ええ。いいで……」
「あれ?
葉山部長じゃないですかぁ」
突然、坂井の影から聞こえた声が、私の言葉を遮った。
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