年の始めのためしとて

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帰り際、初枝達がこそこそ噂話をしているのを千波は聞いてしまった。 自分の娘と陸をお見合いさせてくれと忠臣に持ち掛けている招待客が、数人いたと。 それを耳にして確かに心は波立ったが、頭のどこかで当然のことだと、妙に達観している自分もいた。 今はまだそんな風に思える段階だが、良平と別れることで陸への気持ちに歯止めがきかなくなることが怖い。 とてもとても好きになって。 好きになった後で、陸の新しい恋を傍で見守る自信はなかったから──。 食後、千波は自室へと戻った。 良平と一度会って、きちんと話をしようと決めた。 そして今の自分の気持ちをちゃんと伝えよう、と。 「………ふー……」 携帯を取り出し、千波は一度大きく深呼吸する。 そうして久しぶりに良平へと電話をかけた。 プルルル、プルルル、と呼び出し音が響く中、徐々に千波の心臓がドキドキと弾み出す。 「………………」 しかし、しばらくして電話は留守電へと切り替わってしまった。 緊張の糸が解け、千波の体から一気に力が抜けていく。 (………飲みに行ってるんかな……) チラッと時計を見ながら、千波は後で電話をかけなおしてほしい旨を留守電に吹き込んだ。 会って一度話がしたいというメールも一応送っておいた。 (………いよいよ、決着がつく……) 携帯を握ったまま、千波はゴロンとベッドに横になって目を閉じた。 いつ電話がかかってきてもいいように、いつもより遅くまで起きていた千波だったが。 ────その夜、とうとう良平から何の連絡も返ってはこなかった。  
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