君を守りたい

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(よりによって、蔵かよ……!) 引っ掛けるように靴を履いて庭へ出た陸は、蔵へ向かって真っ直ぐに走り出した。 幽霊が出そうで怖い、と涙を浮かべていた姿や、トラックが通っただけで顔を真っ青にしてうずくまっていた千波の姿が、同時に陸の頭をよぎる。 さっきの地震自体は大した揺れではなかったが、PTSDまで発症している千波にはどれだけの恐怖を与えているかはわからない。 「千波さん……!」 蔵の扉は開け放たれていて、陸はそのまま中へと飛び込んだ。 人の気配もしないほど、中は静まり返っている。 だが先程の揺れのせいか、明かり取りから差し込む微かな光に埃が舞って見えた。 「千波さん、どこですか」 声をかけながら奥へと進んだ陸は、ある棚の前でハッと足を止めた。 散乱した古い本の真ん中で、千波が頭を抱えるようにしてうずくまっていたのだ。 「千波さん……!」 慌てて陸は千波に駆け寄り、その体を抱き起こす。 抱いた小さな肩はカタカタと小刻みに震えていて、俯いている顔色は真っ青だった。 「大丈夫ですか、千波さん!」 「………………」 千波はようやく陸の存在に気が付いたように、ゆっくりと顔を上げた。 陸の顔を視界に入れた瞬間、千波の両目に涙が盛り上がる。 「…………陸様」 「もう収まったから。だから大丈夫です」 とにかく落ち着かせてあげないと、と思い優しくそう言うと。 千波は震える手で、陸の胸にしがみついてきた。 そうしてカタカタと全身を震わせながら、上擦った声で口を開いた。 「………私、……私、一生このまんまなんでしょうか。……地震が来る度に、こうしてずっと……」 「………………」 「………少しずつ、治ってはきてたんです。……でも最近は、情緒不安定のせいか、また前みたいに症状が出始めて……」 しゃくりあげながら話す千波を、陸はしっかりと抱き留める。 (………千波さん……) 何と声をかけていいのかわからず、陸はただ黙って優しく千波の肩を撫で続けた。 それに安堵したのか、千波の体から徐々に震えは消えていき……。 蔵中に響いていた嗚咽も、小さくなっていった。 「…………私」 しばらくして千波がぽつりと話し始めたので、陸はそっと体を引き離した。 千波は陸の服を両手でギュッと握ったまま、顔を伏せて言葉を続けた。  
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