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「死にたかったなんて、間違っても言わないでほしいし、思わないでください」
「………………」
「少なくとも、俺は千波さんに会えて人生が変わったから」
涙を含んだ震えがちの陸の言葉を聞いて、ずっと強張っていた千波の肩からゆっくりと力が抜けていった。
「千波さんに会えなければ、俺はまだここで一人で殻に閉じこもったままだったはずです。千波さんと出会えてよかったって、心からそう思ってるんです」
「…………陸様」
「だから、そんな風にだけは……」
そこでとうとう言葉に詰まり、陸は深く頭を垂れた。
これ以上しゃべると、涙が零れそうで。
けれど何とかして、千波のその考えを払拭してやりたくて。
(………守ってあげたい……)
陸は今、強くそう思った。
千波自身、瓦礫の下に二日間閉じ込められ、大怪我を負い。
今までの生活が全て壊れ、慣れ親しんだ土地を離れざるを得なくなって。
孤独と深い心の傷を負った中、一人生き残ったことの罪悪感までを背負って生きていくなんて、残酷すぎる……。
「……………っ」
この深い傷を、少しでも癒してあげたい。
千波の支えになってあげたい。
………そう思う気持ちに、よそ者とか、震災を経験していないとか、絶対に関係ない。
今間違いなくこうやって、二人は一緒にいるのだから。
何故か陸が涙を堪えているのを見て、逆に千波は少しずつ落ち着きを取り戻し始めたようだった。
何度か鼻を啜って、言葉もなくただじっと陸の顔を見つめている。
陸はそっと千波の頬に触れ、両手の親指でゆっくりと涙を拭った。
陸の優しい眼差しとその手の温かさに、千波の心は少しずつ凪いでいく。
千波が目を上げて陸の顔を見つめると、陸は微笑みながら大きく頷いた。
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