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こんなことを思っていると知れば、悲しむとわかっていたから。
祖母にも、良平にも誰にも言えなかったこと。
話して上辺だけの慰めも、欲しくなくて。
ずっと自分の中だけに封印していた思い。
けれど何故か陸には、素直に抱えていたものを吐露することができた。
そして陸は、上辺の慰めなんか言わなかった。
『馬鹿だ』と。
そんな風に考える自分は馬鹿だと、そう言ってくれた。
もしかしたら自分は、ずっと誰かにそう言ってもらいたかったのかもしれない。
そう言って叱ってもらって、今自分が生きている意味を知りたかったのかもしれない。
「……っ、……陸様、……陸様……」
陸の胸にしがみつきながら、千波は声を限りに泣いた。
陸は黙って、千波の背中を撫で続ける。
埃っぽさと微かなかび臭さの漂うこの蔵の中で、陸の腕の中だけが今の千波の居場所だった。
祖母の病気、良平の浮気、そして職場をクビになったこと。
こんなにも色んな悪いことがいっぺんに起きるのは、結婚を意識し、新しい生活を望み始めた自分への罰なのではないかと。
そう感じることがあった。
一人生き残った自分だけが幸せになることを、誰かが許していないのではないかと。
………けれど、自分が生きていくことこそが、両親や弟が生きていた証なのだと言われたことで。
驚くほど、心が軽くなった自分がいた。
幸せを望んでいい、と。
陸にそう言ってもらえたから。
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