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(………ど、どうしよう……)
興奮し、我を忘れて陸の胸にしがみついてしまったが。
少しずつ気持ちが落ち着くにつれ、千波はすっかり顔を上げるタイミングを逃してしまった。
陸も何も言わず涙が止まるのを待ってくれていて、ただずっと黙って背中をさすってくれている。
その手も、体温も、聞こえる鼓動も全部優しくて心地好くて。
本音を言えばいつまでもこうしていたかったが、さすがにそんな訳にもいかない。
「………………」
顔を胸に押し当てたままもじもじしている千波に気付き、陸はクスッと笑みを漏らした。
「少し落ち着きましたか?」
「…………は、い」
小さく返事をしてから、千波はゆっくりと陸の体から離れた。
恥ずかしいのと、泣き腫らした顔を見られたくないのとで、千波は顔を上げられない。
すると陸は、千波から目を逸らして床に散乱していた本を拾い始めた。
「あ、すみません、私がやります!」
「いや、手伝いますよ。……ていうか、これ地震でこうなったんですか?」
「………わかりません。とりあえず床に積んで置いてたんですけど、もしかしたらパニックになって私が薙ぎ倒したかも……」
屈んで一緒に拾い始めた千波に、陸は遠慮がちに目を向ける。
目元の化粧はほとんど流れ落ちてしまっていたが、表情はどこかすっきりしたように見えた。
少し安堵して、陸は再び足元の本を片付け始めた。
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