君を守りたい

3/22
前へ
/40ページ
次へ
初枝の残した言葉が気になり、散々迷ったあげく結局陸は家を出た。 千波が何時に墓参りに向かうのかもわからなかったが、会えなければ別にそれで構わないと思ったのだ。 (………さすがに寒いな……) 足元に気を付けながら、陸は坂を下る。 一般道に出るまでは私道なので、まだほとんど雪は誰の足にも踏まれておらず。 そこをサクサクと踏み締めて歩くのは気持ちがよかった。 (やっぱり……よそ者って言われても仕方がないのかな……) 初枝に聞くまで、今日が震災の日だったということを自分はすっかり失念してしまっていた。 だがおそらくこの町に住む人……つまり震災を経験した人達は、決して忘れることはないのだろう。 「………………」 良平に言われた『あんたでは無理や』という言葉が、今この時になって陸に重くのしかかっていた。 (寺って……こっちだっけ……) なんとなくの方向で歩いていた陸は、ある枝道に差し掛かり立ち往生していた。 小さい寺だからか、表示も看板も何もない。 どちらへ行こうかと途方に暮れていたその時。 「………………!」 一方の坂から、キュッ、キュッと雪を踏み締める音が聞こえてきた。 その音に誘われるように目を向けると。 「………え。……陸様?」 坂の上から下りてきたのは、寒さで頬を真っ赤にした千波だった。 陸の姿にかなり驚いたらしく、目を真ん丸にして足を止めた千波を見て、陸はつい笑みを零した。   「………こんにちは」 「こ、こんにちは」 言いながら千波は止めていた足を動かし、ゆっくりと陸の元へと歩いてきた。 傍で顔を見て、陸はホッとする。 (………あぶね。すれ違うとこだった……) 覚束ない足取りの千波が危なっかしくて、陸は思わず手を伸ばしてその手首を掴んでいた。 雪に慣れていないのは、お互い様のようだ。 「す、すみません……」 「いえ」 「っていうか……陸様こんなところで何なさってるんですか?」 手袋をした手で陸のコートにしがみつき、千波は目を丸くしたまま陸の顔を見上げた。  
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2192人が本棚に入れています
本棚に追加