君を守りたい

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ぽつりと呟いた千波の息は、真っ白だった。 おそらくすっぴんに近い顔は頬が真っ赤で、反して唇は血色が悪い。 どれほど長く寺にいたのかと、陸はふと心配になった。 「お寺、寒かったでしょう?」 気遣うように声をかけると、千波は両手を擦り合わせながら笑った。 「寒かったですよー。普段なら雪って珍しいから子供みたいにワクワクしちゃうんですけど、今日ばっかりは天気恨んじゃいました」 明るく言った千波だったが、その後ふっとどこか遠い目になった。 「………あの日も、寒かったなぁ……」   陸に言ったというよりは、思わず独りごちた印象だった。 『あの日』というのが、震災が起こった日だということは明白で。 寒空の下、二日間も瓦礫の中に閉じ込められていたという話を思い出し、陸の胸がギュッと痛みを覚えた。 どれだけ恐ろしく辛い時間だっただろうと、想像しただけでゾッとする。 しかも助け出された後、両親と弟が亡くなったと聞かされたのだ。 まだ小学生だった千波に、その現実はどれほど厳しいものだっただろう……。 (俺には……本当にその苦しみを分かち合うことはできないんだろうか……) 東京にいた自分は、震災を経験していないから。 今もまだ家族の墓の前で涙を流す千波の心の傷を、自分では癒してあげることができないのだろうか。 「…………あの」 もうすぐ千波の家へ続く辻に出るというところで、どこか遠慮がちに千波が口を開いた。 物思いに耽っていた陸はハッとする。 「あ、は、はい」 「………その……」 言いにくそうに少しもじもじしていた千波だったが、しばらくして恐る恐るという風に陸の顔を見上げた。 「陸様。……お見合い、なさるんですか?」 「……………え?」 お見合いという唐突な単語に、陸は思わず足を止める。 それにつられて千波も足を止め、二人は黙ったまま向かい合った。 「………お見合い?……俺が?」 「………はい」 「いや、しませんけど。……どうしてですか?」 困惑気味に答えを返すと、千波はどこかホッとしたように肩の力を抜いた。  
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