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それから一週間後。
先日の雪はすっかり溶けてしまい、淡路島にもいつもの風景が戻ってきていた。
正月気分も抜けもうすぐ2月になろうとしているが、寒さはまだまだ厳しく、春は遠い。
来月の休みの希望日を陸に提出する為、千波は陸の部屋へと向かった。
雪の日に会話をしたことで気まずかった空気も少しだけ解消され、今は顔を合わせてもまた前のように会話ができるようにはなっていた。
とは言え、自分の気持ちは日々、募ってしまっているのだが……。
「………………!」
陸の部屋の前に立った千波は、中から話し声が聞こえてきたことに気付きノックしかけていた手をふと止めた。
どうやら誰かと電話をしているらしい。
(………出直そっか……)
そう思い踵を返しかけたその時。
『柚子さん』という単語が千波の耳に飛び込んできた。
ドキッとした千波は思わず足を止め、ドアを振り返る。
(…………柚子さん?)
それは、陸がかつて恋をした人。
東京でその人との恋に破れて、陸が淡路島に戻るきっかけになった女性だ。
(柚子さんと……話してるん?)
盗み聞きするつもりはなかったが、千波は気になってついその場に立ち尽くしてしまった。
だがそれからすぐに電話は切れてしまったようで、陸の話し声は聞こえなくなった。
「………………」
何故か今は平常心で陸の顔を見る自信がなくて、千波はそのまま台所へと引き返した。
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