君を守りたい

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逃げるように千波が台所に戻ったその時、ちょうど居間のドアが開いて友美が顔を覗かせた。 千波の顔を見て、小さく笑顔になる。 「あ、千波さん。ちょうどよかった。今何か仕事してる?」 「え、いえ。大丈夫ですけど」 「そう、よかった。だったらちょっとお願いしたいんやけど」 申し訳なさそうに言い、友美は手を合わせた。 「はい。なんでしょうか?」 「蔵に行って、この本二冊探してきてくれへんかなぁ?」 「…………蔵、ですか」 実はあの古びた蔵はいかにも何か出てきそうで正直あまり好きな場所ではないのだが、そんな理由で仕事を断れる訳もない。 「かしこまりました」 友美の持っていたメモを受け取り、千波はニコッと笑顔でそれを快諾した。 (柚子さん、何の用事やったんかなぁ……) 蔵で山積みになっている本と格闘しながら、千波は先程からそのことばかりを考えていた。 気になって、気になって、仕方がない。 『彼女が笑ってくれるだけで幸せに感じるぐらい……本当に好きだったんです』 あの日、引き絞るような声で言った陸の言葉が頭に蘇る。 いつも穏やかだった陸が、初めて見せた『素』の部分だった。 (もしかして……まだ気持ち残ってたりするんかなぁ……) 自分の気持ちにケリはついたと言ってはいたが。 あの真面目で一途そうな陸が、そこまで好きになった女性をそう簡単に忘れるとは思えない。 今もまだ本当は、心のどこかで柚子を想っていたりするのだろうか……。 「………………」 モヤモヤとした気分になり、千波はブンブンとかぶりを振って仕事に集中することにした。
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