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最後は涙ではなく笑顔で別れたいと。
その気持ちが通じたのか、良平も無理矢理に口角を上げて笑顔を見せた。
「…………はは」
「ふふっ」
涙混じりの笑顔がおかしくて、二人は互いの顔を見て同時に小さく吹き出した。
「………………」
笑顔のまま、二人は黙って見つめ合う。
やがて良平が、全てを断ち切るように千波から手を離した。
最後の温もりが徐々に手の平から消えていき、千波の胸を一抹の寂しさが過ぎる。
「…………じゃあな」
「うん」
「先、帰ってくれ。……俺、見送ってるから」
「………………」
千波は小さく頷き、最後にじっと良平の顔を見上げた。
良平の顔から既に笑顔は消えていて、代わりに名残惜しそうな色がその瞳に浮かんでいた。
最後に何かを言おうと口を開きかけたが。
結局何も言葉が浮かんでこず、千波はギュッと目を瞑ってから思い切って踵を返した。
(………さよなら……良平……)
背中を向けていても、良平がじっと自分を見つめているのを感じた。
何度も振り返りそうになり、千波はその都度自分を戒める。
(あかん。……振り返ったらあかん)
強く閉じた両目から、涙がポロポロと零れ落ちた。
5年という月日までもが涙と共に流れ落ちていくようで、千波は口元を押さえて嗚咽をこらえる。
良平と付き合った5年間を、決して無駄だとは思わないから。
それを証明する為にも、絶対に幸せになろうと。
強く心に誓いながら、千波は一度も振り返ることなく公園を後にしたのだった。
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