2077人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「……っあー、あかん、女々しいな、俺。きっぱりフラれたのに」
ハハッとどこか渇いた笑い声を漏らし、良平は勢いよくベンチから立ち上がった。
千波が無言で見上げると、良平は吹っ切れたような笑顔で千波に右手を差し出してきた。
「元気でな、ちぃ」
握手を求められているのだと気付いた千波は、差し出された手をゆっくりと握り返した。
そうして同じようにベンチから立ち上がり、真正面から良平と向かい合った。
「………良平も。……元気で。仕事、頑張って」
「うん。ちぃも、頑張れよ」
「………ありがと」
「ばあちゃんに、よろしくな」
「………うん」
段々と別れが近付いているのだと実感し、千波の胸が張り裂けそうになる。
確かに最後は裏切られたが、この5年間が幸せだったことは間違いなくて。
その幸せを与えてくれた人が良平だということも、間違いなくて。
これで本当に終わってしまうのだと思うと、哀しみとも寂しさともつかない涙が両目から堰を切ったように溢れ出した。
「………ご、5年間……ありがと……良平。……私、ホンマに……楽しかっ……」
「………………」
千波の涙を見て、良平の手にぐっと力がこめられる。
見上げると、良平の目にもうっすらと涙が滲んでいた。
「絶対、絶対、幸せになれよ、ちぃ」
「…………うん」
「約束やで」
「………うん。……良平も」
開いた手で涙を拭い、千波はなんとか笑顔を作った。
最初のコメントを投稿しよう!