1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
破滅と再生
桔平は自分の住むアパートを見上げると、ウンザ リとした気持ちになった。
池袋で私鉄に乗り換え、三つ目の駅で降りる。
沿線随一の長いアーケードを抜けた先の裏路地 に、そのアパートはあった。
隣の新築住宅に寄り掛かるようにして建ってい る。
どう見ても若干、傾いているのだ。
文学好きの涼子が、ふざけて「斜陽館」などと呼 んでいたのをふと思い出した。
「斜陽館」の崩れ落ちそうな屋根の上に、上弦の 月が哀しく輝いていた。
共同玄関を開けると、そこで靴を脱いで部屋に向 かう。
一階、二階、計・六つの部屋には、それぞれ得体 の知れない住人達が生息していた。
何しろ風呂無し四畳半…… 家賃二万円は、東京では月極駐車場より安い。
まず、まともな者が住まうようなアパートではな かった。
大袈裟に軋む狭くて急な階段を、桔平は這うよう にして登った。
疲れていた。 身体より心が……。
部屋に辿り着くと電気も点けず、ささくれた畳の 上に倒れ込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!