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触れる肌が、熱い。
触れられる指も、かかる吐息も、全て。
(…………陸様………)
もう今は、陸のことしか考えられなくなっていた。
千波はただ懸命に、陸の体にしがみつく。
この温もりを、留めておきたくて。
遠くへ行ってしまうのが、怖くて。
陸の全てを、体に刻み込んでしまいたかった。
「…………千波さん」
陸は時々、確かめるように千波の名を呼んだ。
その声はどこか怯えがちで。
千波はその都度目を開けて陸の顔を見つめた。
切なげに自分を見下ろす陸の肩の向こうに、僅かなカーテンの隙間からチラチラと雪が舞うのが見えた。
抱きしめてほしいと懇願するように両手を伸ばすと、陸は頷いて強く千波の体をかき抱いた。
それからはもう、千波はほとんど自分の意識を手放してしまっていた。
がむしゃらに陸にしがみついて、でもそれは頭で考えてではなく、本能に従うような、そんな感覚だった。
(夢やったら、醒めんといて……)
霞んでいく意識のなかで、千波はそう祈った。
これが夢なら夢で構わないから、それなら一生醒めないでほしい。
このままずっと夢の中で、陸と触れ合っているから……。
「千波さん。………千波さん」
自分を呼ぶ陸の声も、もうほとんど幻聴のように朧に聞こえるだけで。
「…………好きです、千波さん」
最後に引き絞るように紡がれた言葉も、もう千波の耳に届くことはなかった。
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