雪解けの頃

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陸は何故、自分と寝たのだろう。 男と別れたばかりの女に泣いて縋られて、突き放せなかっただけなのだろうか。 ………それとも。 (………最後のほう。……『好き』って言われたような気がしたんやけど……) 朦朧と霞む意識の中で、好きだと呟く陸の声が聞こえた気がした。 だがそれが、どうも幻聴だったような気がしてならない。 何故なら昨夜のことは、どこからが現実でどこからが夢だったのかの境目がわからないぐらいなのだから……。 (……って。考え事してる場合とちゃうわ。陸様が起きる前に朝ごはんの用意せんと……) 今日は9時から通常勤務である。 まだ少し早めだが、陸が起きる前に身支度も朝食の準備も調えておきたい。 物音をたてないようにそろりと布団から下りようとした、その時。 不意に左の手首を強く掴まれた。 「……………っ!」 驚いた千波は弾みで背後を振り返る。 するといつの間に起きていたのか、陸が横になったまま千波の手首を掴んでいた。 「…………どこに行くの」 まだ完全に目が醒めていないのか、どこかぼんやりした口調で陸はそう言った。 千波は慌てて胸元まで布団を引き上げる。 「あ、あの。……朝ごはん作りに行こうかと……」 昨夜のことが脳裏を過ぎり、思わず恥ずかしさで声を上擦らせると。 ぐいっと腕を引かれ、千波は勢いで再びベッドに倒れ込んだ。 そのまま背後から、ぎゅっと抱きしめられる。 「起きて横にいなかったら、全部夢だったかと思うじゃないですか」 千波の耳元で、陸は切なげに囁いた。  
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