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ゾクゾクっと足元から這い上がるような寒さを覚えて、千波はうっすらと目を開けた。
枕元の目覚まし時計を見ると、時間は8時。
(………もうちょっと寝たいなぁ……)
今日は久々の休みで、しかも昨夜はなかなか寝付けなかった。
良平と別れ、家に着いて。
いつものようにお風呂に入って、日付が変わる頃にベッドに潜り込んだ。
帰り道はあれだけ涙が溢れ出したというのに、そこで涸れきってしまったのか、家に帰ってからは一度も涙は出てこなかった。
その事実が、千波は不思議だった。
あれだけ悩んで、迷って、決めた別れだったのに。
哀しさや淋しさよりもまず千波が感じたのは、殺伐とした虚無感だった。
良平と過ごした5年間を、無駄だとは思わないし思いたくない。
だが、20代前半という女性として一番美しい時間を全て良平に注ぎ込んで、その全てがなくなったことを思うと、やはりどうしてもやり切れなくなる。
「………………」
その時ぐうぅっと腹の虫が鳴り、あまりの緊張感のなさに千波は思わず額を押さえた。
人間、どんな時でもお腹は空くらしい。
(よう考えたら、昨日の晩は何も食べてへんもんなぁ…。そりゃお腹も空くか)
二度寝を諦めて、千波はむくりと半身を起こした。
一つ小さな溜息をつき、すぐ脇のカーテンを開ける。
「……………っ」
そこで目にした光景に、千波は思わず息を飲んだ。
「………嘘。……雪降ってるやん」
春が近いと思ったのがまるで嘘のように、窓から見える庭にはうっすらと雪化粧が施されていた。
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