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「………そうなってもいいって、思ったから……」
「………………!」
「でないと、あれだけ忠告されたのに、家に上げたりしません」
泣きそうな顔で、千波は微笑む。
信じられない思いで陸は千波の顔を見下ろした。
「…………千波さん」
「…………はい」
千波は頷き、陸の胸元に置いた手にギュッと力を込めた。
その手を、陸はやんわりと両手で包み込む。
(…………冷たい手だ……)
緊張のせいか微かに震える細い指は、まるで氷のように冷たかった。
だが、今までは触れる度に拒まれていたのに、今はむしろそれに応えるようで。
陸の胸に急激に愛しさが込み上げてきた。
怖々と千波の肩に手を置く。
華奢な肩も、同じように冷たくて、震えていて。
けれど今までのように、全身で拒絶をあらわにされるようなことはなかった。
たまらず陸は、千波の体を引き寄せて強くかき抱いていた。
「…………千波さん」
「…………はい」
千波も腕を伸ばし、陸の首にしがみつく。
息苦しいと感じるほど、二人はお互いを抱きしめる手に力を込めた。
(………信じられない。……今、腕の中に千波さんがいる……)
しかも、無理に抱きしめたのではない。
千波から求められ、そして自分を抱きしめ返してくれている……。
「………………」
情緒もなく、しばらくお互いの体にしがみつくように抱き合っていた二人だったが。
やがて、陸がそっと千波の体を自分から引き離した。
間近で目が合い、千波は静かに瞼を下ろす。
まるでそれが合図のように、陸は頬を傾けてゆっくりと千波の唇に自身のそれを重ねていた。
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