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迷いも、躊躇いも、陸はもう感じさせてはくれなかった。
漏れる声も、吐息も、全て陸の唇が搦め取ってしまう。
「………んっ……あ」
陸の指や唇が与えてくれる信じられないほどの快感に、千波はただ身をまかせるしかなかった。
「……………っ」
声を出すのを堪えようと唇に置いていた指を、陸はつかんでどける。
その指に自身の指を絡ませながら、陸は疲れたように千波の体に折り重なった。
「…………千波さん」
ハア、ハア、と陸の荒い息が耳朶を掠め、千波はうっすらと目を開ける。
「千波さん。……千波さん」
今度は陸が、切ない声で何度も千波の名を呼んだ。
それを耳にした千波の目に、じわりと涙が浮かぶ。
(…………陸様………)
知らない人はもしかしたら、二人のことをふしだらだと言うかもしれない。
恋人同士でもないのに関係を持つなんて、と。
けれどこの行為は、決してふしだらなんかではないと千波は強くそう思った。
あんなに激しく心が陸を求めて、でもずっと抑え込んできた想い。
遠くて、遠くて、その背中すら掴める気がしなかった。
けれど今、それが触れられる場所にあって。
そこに向かって手を伸ばすことを、誰にも責められたくなんかない……。
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