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いつもは感じることのない優しい温もりに包まれたまま、千波はゆっくりと目を開けた。
カーテンの隙間から細く明かりが差し込んではいるが、まだ部屋の中は仄かに薄暗い。
壁掛けの時計を見ると、まだ6時前だった。
「………………」
ぼんやりと虚空を見つめていた千波は、ふと横に人がいる気配に気付き、おもむろにそちらに顔を向けた。
「……………っ!!」
横を向いた瞬間陸の寝顔が視界に飛び込んできて、千波はハッと目を見開いた。
一気に脳が覚醒し、千波はガバッと勢いよく半身を起こす。
(………そうや。……昨日、私……)
恐る恐る、千波は陸の顔を見下ろした。
寝息すら聞こえないほど、陸はよく眠っている。
布団からちらりと覗く肩は剥き出しで、千波の胸がドキリと大きく弾んだ。
慌てて自分の体を見下ろしたが、やはり何も身に付けていなかった。
(………夢やなかった……)
千波は思わず、両手で頬を押さえる。
夢なら醒めないでと願ったほど、昨夜のできごとは煽情的で、でもどこか脆くて、壊れてしまいそうなほど儚い一時だった。
(………どうしよう。……陸様と、エッチしちゃった……)
一夜明け、急に現実感が押し寄せてきて。
それと同時に、嬉しさよりも不安のようなものがじわじわと胸に込み上げてきた。
千波はじっと、陸の寝顔を見つめる。
長い前髪がサラサラと額にかかり、寝顔のあどけなさが更に際立つ。
行為のさなかに自分を見下ろしていたどこか艶っぽい昨夜の顔とのあまりの落差に、千波の胸がきゅうっと締め付けられた。
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