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「お、おはようございます」
明るいところで顔や体を見られるのが恥ずかしくて、千波は口元まで布団を引き上げた。
陸も同じなのか、少しはにかんだように苦笑する。
「………なんだかちょっと、恥ずかしいですね」
「…………はい」
顔を隠しながら頷くと、陸は窓のほうに視線を投げた。
カーテンは閉めているが、差し込む光で今日は天気がいいことがわかる。
「雪……止んだんだな」
呟いた後、陸は額を押さえながらムクッと半身を起こした。
胸元を布団で隠したまま千波もそれに倣って起き上がる。
陸はきょろきょろと何かを探すような素振りを見せた。
「着替えたら、すぐに帰りますね」
「…………え」
驚き、千波はじっと陸の横顔に見入った。
「あ、あの。すぐに朝ごはん作りますから。食べて帰ってください」
「え?」
どうやら脱いだ服を探していたらしい陸は、ベッドの下から上着を拾い上げながら千波を振り返った。
「いや、でも。すぐ帰ったほうがいいでしょう」
「どうしてですか?」
「早い時間のほうが人目に付きにくいと思うし」
「…………あ」
そこまで考えていなかった千波は間の抜けた声を出す。
昨日はもうそんなことはどうでもいいと思ったが、一旦冷静になるとやはり近所の目が気になり始めてしまった。
「俺はいいけど、千波さんに悪い噂が立ったら困りますからね」
「………………」
押し寄せる現実が昨夜の余韻すら感じさせてはくれず。
淡々と着替え始める陸の背中を、千波はどこか淋しいような切ない気持ちで見つめていた。
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