摂氏100℃の微熱

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※※※※※※※ 「おばあちゃん」 いつもより10分ほど遅く祖母の病室へ行くと、祖母はベッドに半身を起こして窓の外を眺めていた。 窓は半分開けられていて、爽やかな風が吹き込んでいる。 千波が声をかけると、祖母は笑顔でこちらを振り返った。 「ああ、千波。来てくれたん」 「………うん」 ベッドの横に立てかけていたパイプ椅子を広げ、千波はそこに腰を下ろした。 いつものように棚から林檎と果物ナイフを取り出し、剥き始める。 「今日はいつもより遅かったね」 「………ん。ちょっと午前の診察終わるの遅かってん」 「そう。……忙しいんやったら、毎日来んでもええんよ」 「………………」 剥いた林檎を一つ皿に乗せながら、千波は苦笑を浮かべた。 来なくていいと言いながら、少し遅れたことにちゃんと気付いている。 昼休み、こうして千波が毎日来てくれるのを祖母が楽しみにしているのは明らかだった。 「…………はい」 「ありがとう」 皿を差し出すと、祖母は細かく切った林檎の一つに爪楊枝を刺してゆっくりとそれを食べはじめた。 千波はじっとそんな祖母を見守る。 一度食事を喉に詰めたことがあるので、何かを食べる時は細心の注意が必要だった。  
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