1927人が本棚に入れています
本棚に追加
「嫌や、まさか……私のせいとか言わへんよねぇ? バレンタインの日のことでモメたとか、そんなこととちゃうわよね?」
「………………」
青い顔で目を逸らしてしまった千波を見て、みどりは呆気にとられたように口をあんぐりと開けた。
「ちょっと……嘘でしょう……?」
「…………………」
「何やってんのよ。まさかそれでケンカして職場変わったなんてことは……」
「そ、それは違います!……退職することは、元々決まってたんです!」
慌てて千波はみどりの言葉を否定する。
春の陽気に誘われたように、どこかから場違いな鶯の鳴き声が聞こえた。
千波は俯いたまま、ポツリと口を開いた。
「………陸様とぎくしゃくしてるのは、ほんまです。……でもそれは、みどりさんのせいじゃないんです。確かに引き金にはなったけど……遅かれ早かれ、出てきた問題やったんです」
「…………………」
「私達は多分……圧倒的に、言葉が足りひんかった……」
訥々と千波が話すのを、みどりは黙って聞いていた。
話しながら、もう何度目かわからない後悔の波が、千波の胸に押し寄せる。
最初のコメントを投稿しよう!