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震える声で問うと、みどりは苦笑しながら千波を見上げた。
ふっ、と吐息し、切なげに眉を下げる。
「好きな人の為よ」
予想外の言葉に、千波は目を見張った。
「…………え?」
「私が陸さんの好きな人に、事あるごとに意地悪なこと言ったりしたりしてたからね。……二度と陸さんに近付かないことと、その人をもう傷付けへんってことを約束したから、朝まで一緒にいてくれた訳」
「………………」
一気に話したみどりの声は、どこか涙をはらんでいるように千波は感じた。
(………じゃあ陸様は……私の為に……?)
思わず千波は手で口元を覆う。
カタカタと小刻みに体が震え出した。
あの時、陸が事の真相を話さなかったのは。
『千波の為』だとは、言いづらかったからなのだろう。
みどりと一夜を過ごす理由を、千波に転嫁してしまうことになってしまうから一一…。
(…………陸様………)
言葉を失う千波の前で、みどりはサッとベンチから立ち上がった。
千波と真向かい、肩をすくめてみせる。
「もちろん、朝まで一緒におっただけ。向かい合って、コーヒー飲んで、お喋りして…。見事なくらい、何にもなかったわ」
さっぱりした口調でそう言うと、みどりはうーんと大きく伸びをした。
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