摂氏100℃の微熱

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「さて、と。お薬貰ってもう帰ろうかしらね。……結構長いこと話し込んでしもたわ」 「…………あ」 千波がハッと顔を上げると、みどりはツンとそっぽを向いて歩き始めた。 しかし、二、三歩進んだところでふと足を止めた。 「ああ、そうや」 何かを思い出したように、みどりは千波を振り返った。 「陸さん、来月から東京に行くらしいわね」 「…………え?」 千波は無意識に眉を寄せる。 「東京はもう、先月に行かれたはずですけど……」 「──── そうやなくて」 少しイラッとしたようにみどりは千波に体ごと向き直った。 「陸さん、東京で仕事することに決まったんでしょ。……確か成瀬グループの御曹司に本社に呼び戻されたって、父が五十嵐のおじ様から聞いたって言ってたけど?」 淡々と言葉を重ねるみどりの口元を、千波はぼんやりと見つめた。 「………………え?」 すぐにはみどりの言葉が理解できず、千波は間の抜けた返事を返した。 そんな千波の様子を見て、みどりは腕を組んで大きな溜息をついた。 「その様子やと、知らんかったみたいやね」 「………………」 「先月に東京に行った時に、戻ってきてほしいって頼まれたらしいわよ。それで来月には東京に行って、成瀬グループの本社で働くみたい」  
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