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目が合うと、陸はニコッと微笑んだ。
千波はギュッとみどりから預かった紙袋を持つ手に力を込める。
「………珍しいから、びっくりしました。……昨夜は、眠れなかったんですか?」
「………………」
冷静を装いながらさりげなく問うと、ほんの一瞬だけ陸の顔が強張ったように見えた。
「………はい。……少し、眠れなくて」
首の後ろに手を置きながら、陸は少し千波から視線を外した。
千波はじっと陸の顔を見上げる。
「…………………」
そのまま陸が昨夜の話をしてくれるのではないかと、千波はしばらく陸の様子を窺っていた。
けれど陸は、それ以上口を開こうとしなかった。
千波は、強く唇を噛み締める。
(………言ってくれへんのや。……昨日のこと、黙ってるつもりなんや)
それは、やましいことがあるからなのか。
それとも逆に、何もないからあえて言わなくてもいいと思っているのか。
もう何もかもがわからなくなり、千波は持っていた紙袋をグイッと陸に突き出した。
キッと強い瞳で陸の顔を見上げる。
すると陸は、戸惑ったような表情を浮かべた。
「……………え?」
「────今朝、みどり様からお預かりしました。……昨夜の陸様の忘れ物やそうです」
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