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その瞬間、陸の顔色がサッと変わった。
それを見た千波の中で、何かがプツンと切れてしまった。
「ホテルの洗面所に、腕時計を忘れていたそうです」
紙袋を陸の胸に押し付けるようにして、千波は語気を強くした。
陸の顔色がみるみる蒼白になっていく。
「……………っ」
その顔が、浮気現場に踏み込んだ時の良平の顔と重なって見えて。
目に浮かんできた涙をごまかすように、千波はガバッと深く頭を下げた。
「失礼します……!」
それだけを言って踵を返すと、陸はハッとして慌てて千波の手首を掴んだ。
「待ってください!!」
「……………っ」
「千波さん、何か誤解してませんか…!?」
千波はバッと陸の腕を振り払い、勢いよく陸に向き直った。
「誤解って、なんですか!?」
「…………………」
「誤解されるようなこと、何かあったんですか!?」
今まで見たこともないような千波の剣幕に、陸は一瞬気圧される。
だがすぐに落ち着こうと、一度深く息を吸った。
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