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てっきりみどりが何か誇張して千波に話したのだと思っていた陸は、言葉を無くす。
千波が今言ったことは、概ねその通りだったからだ。
「…………………」
青い顔で押し黙ってしまった陸を、千波はジッと見据える。
「………反論なさらないってことは、全部ホンマのことなんですね」
刺々しい声に、陸はガバッと顔を上げた。
「確かにその通りです。……でも朝まで一緒にいたと言っても、ただそれだけです。それ以上のことは何もありません」
「────じゃあ」
いつの間にか地面に落ちていた紙袋に、千波はキッと目を向ける。
落ちた弾みか、中から腕時計が飛び出してしまっていた。
「じゃあどうして、洗面所で腕時計なんか外すんですか…!?」
「それは…っ、ただ顔を洗っただけです!」
「………………」
言葉を重ねる度に、自分はなんてみっともない女なのだろうと、千波は思った。
そう思うのに感情がコントロールできず、発する言葉も自制できない。
(………嘘つかれたら浮気って……そう言ったのは陸様やんか……)
目頭が熱くなり、鼻の奥がツンとしてくる。
たとえ何もなかったのだとしても、みどりと一夜を過ごした事実を黙ってやり過ごそうとしたその行為が、千波の猜疑心を余計に煽る形になってしまった。
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