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「千波さんが彼にプロポーズされて迷っていた時、俺に言ったでしょう? 三十路手前の女の気持ちなんか、俺にわかる訳ないって。
………それを聞いて思ったんです。好きだからって気持ちだけじゃダメなんだって。
千波さんに気持ちを伝える時は、ちゃんと結婚の意思も明らかにしないといけないんだろうなって……」
「………………」
「でもそうなったら、早々に仕事決めないと…って思って。無職でプロポーズなんてあまりにも格好がつかないし、千波さんだって不安だろうな…って。……そんなことを色々考えたら、なかなか好きだって口にできなかったんです」
みっともない男のプライドです、と言って陸は自嘲気味に笑った。
初めて陸の本心を聞き、またそこまで陸が自分のことを考えてくれていたのだと知り、千波は心から驚いてしまった。
「………陸様……」
「………あとどうしても、前の彼と5年も付き合ってたって事実がネックになってしまって。
どうしたって彼のほうが千波さんのことよく知ってる訳だし……。プロポーズの時に指輪を貰ったって聞いて、本当に悔しかったんです。
………俺は、サイズも好みもわからないから、絶対敵わない、なんて……そんな『形』ばかりを気にしてしまっていました」
そこで陸は顔を上げ、千波を見つめながらふっと笑みを漏らした。
「でもあの日、あんな風にあなたが思っていたって初めて知って……。何もかもが噛み合わなくて、伝わらないもどかしさにイライラして。……でもそこでやっと気が付いたんです」
「………………」
「伝わらないんじゃなくて、俺が何も伝えてなかったんだってことを」
パッパッと手についた砂を払い、陸は膝立ちになってもう一度千波の手を握りしめた。
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