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一際強い風が吹いたと思った次の瞬間、ザザザーッと優しい波の音が二人の間に響き渡った。
少しずつ夜の帳が降りようとする中、徐々に闇に溶けていく陸の姿をしっかりとつかまえておきたくて。
千波は瞬きもせずに、目の前に立つ陸の顔を見つめ続けた。
今聞いた言葉が空耳じゃないことを確かめようと、千波は震える声で陸の言葉を反芻する。
「お……嫁……さん?」
か細い声で問い返され、陸は深く頷いた。
「はい。……本当なら指輪を用意したかったけど、俺は千波さんの指輪のサイズも好みのデザインも知らないから。……でも、大事なのはそんなことじゃなくて言葉なんだ…って。失いかけて、ようやく気付くことができました」
「………………」
「俺は、千波さんが好きです。……ずっと、あなたと一緒にいたい」
甘く穏やかだった陸の瞳に、小さな熱が灯る。
その瞳に千波の姿が映り込んで、ゆらゆらとみなものように激しく揺らいだ。
「………だから千波さん。俺と、結婚してください」
疑いようもない程はっきりと、陸は力強くそう言った。
夢ではないのかと、千波は自分の頬を思いっ切り抓ろうとしたが、陸にしっかりと両手を握られていたのでそれは叶わず。
けれど夢ではない証拠に、陸の両手はとても温かく、力強かった。
「……………っ」
ずっとずっと聞きたかった『好き』の一言を聞いて。
更には想像もしていなかったプロポーズの言葉に、千波はとうとう立っていられなくなり、へなへなとその場にへたりこんだ。
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