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「わ、私に……会いに来てくださったんですか?」
「はい」
頷いた後、陸は申し訳なさそうに眉を下げた。
「23日に連絡するって言ったのに、できなくてすみませんでした。……あんな別れ方をしてしまって、色々考えていたら、電話する機会を逸してしまって……」
「……………っ」
陸に謝罪されるとは思わず、千波は口元を押さえて首を横に振った。
陸のことを信じ切ることができず、自身のつまらないプライドの為にあんなひどい言葉を投げ付けたのだから、そうだとしても仕方がない。
あの時の傷付いた陸の顔は脳裏にくっきりと焼き付いて、きっともう二度とこんな風に笑いかけてはもらえないとさえ思っていた。
「わ、私のほうこそ……あんな酷いこと言ってすみませんでした。……私……」
言葉を詰まらせながら喘ぐように言うと、陸は小さく笑って首を横に振った。
「千波さんは何も悪くありません。よかれと思ってしたことが、逆にあなたを不安にさせて……。あんなことを口走らせてしまったのは、俺のせいだから……」
「………………」
前と変わらず優しい陸の言葉に、千波は胸がいっぱいになる。
それと同時にみどりの言葉が頭を掠め、千波は強く拳を握りしめた。
(確かめなあかん……。陸様本人に、ちゃんと……)
嗚咽で少し乱れた呼吸をなんとか整え、千波はキッと陸の顔を見上げた。
そうしておそるおそる、窺うように口を開いた。
「………陸様。来月、東京に行かれるって本当ですか?」
「……………え?」
陸は驚いたように目を丸くして、千波の顔を見つめ返した。
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