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「お前がここへ来て何年になる?」
「さあ…テシャはまだ幼くごじゃった」
「お前は今もまだ小さいだろう」
王が言うと少女は目を伏せて琵琶を撫でた。
「小さくとも王の一番お側にお仕えする兵じゃ」
「不遜だな」
王は高らかに笑って腰を上げた。
「夜も更けた。俺は月詠みの所へ行く。お前ももう下がれ。明日は俺の狩りに連れ添え」
「…では朝日が聖火の殿を差す刻限、馬を用意して待つ」
うん、と王は満足そうに頷いて部屋をあとにする。
残された少女は琵琶を傍らに置いてふっと息をついた。
「いるのは分かっているぞ。…チキ、クロバ」
声に反応した二つの影が桃の木から音もなくテシャの前に飛び降りる。
黒装束に能面。
「言ったはずじゃがな。テシャの周りをうろちょろするなと」
「テシャ様のお側にお仕えするのが我らが役目」
「近付き過ぎだと言っている。あまりあの王を舐めるな。いくらお前達でもいずれ勘付かれるぞ」
「なりません」
二人が能面をはずす。
獣と人の入り混じった二つの顔が、テシャを見つめた。
「我らは死ぬまでテシャ様のお側にお仕えするのです。テシャ様の御身にいかなる危険が及ぶ時も自らの身をその盾とする為に」
「…亜人どもめが」
テシャが憎々しげに吐き捨てると、梟が鳴いた。
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