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「男子メンバー最後のひとり、神谷響くんでーす! こーんないい男なのに彼女ナシ! 飲み会誘ってもなかなか来ない、つれないヤツだけど! 仲良くしてやってねー!」
その紹介に、みんなが笑いながら拍手をする。
神谷さんも少し眉を下げながら笑って、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「で、女子の皆さんは、ウチのクライアント、T社の方々! みんな、コイツに名前教えてやって!」
そう松原さんが言うと、女性側の幹事が「はーい!」と答えて名乗った。
右側から順番に名乗る流れで、私の隣のユリナちゃんが恐る恐るといった様子で「宮野ユリナですぅ……」と呟いて。
いちど、ごくりと喉を鳴らしてから、私も続いた。
「羽村、澪です。よろしくお願いします」
にっこり、笑ってみせる。
そう見えている、はずだ。
何の自信もないけれど、凛とした態度に見えるように。
私は背筋を伸ばし、神谷さんをまっすぐ見た。
何かを考えるような素振りを見せてから、神谷さんは私に向き直って言った。
「神谷響です。はじめまして」
その穏やかな笑顔が、私の心配を吹き飛ばしてくれた。
神谷さんは言った。
『はじめまして』と。
それはつまり、私とユリナちゃんが吐いている嘘に、付き合ってくれるということだろう。
心から感謝しながら、グラスを持ち上げた。
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