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「とりあえず、乾杯、ですよね?」
そう微笑むと、神谷さんは一瞬驚いた顔。
そしてすぐにあの柔らかい笑みに戻って、同じようにジョッキを手に取った。
「ええ。では、乾杯」
グラスを合わせると、周りのみんなも口々に「乾杯!」と明るい声をあげる。
私は二杯目に頼んでいた梅酒のソーダ割を喉に流し込みながら、思った。
……契約、みたいだったな。
私たちの、小さな嘘の片棒を担ぐ、契約。
神谷さんはそこまで考えてはいないだろう。
そう思いながらも私は密かに、小さな達成感を覚えていた。
同時に、思う。
また新たな“秘密”ができてしまった。
……今は、長瀬のことなんて、全然関係ないのに。
むしろあんな“約束”なんて、一方的で無茶な要求で、私に何のメリットもないのに。
……ううん、それよりもっと、気にしなくちゃいけないことはあるはず、なのに。
目の前の出来事を切り離した場所で、私は新しく生まれた“秘密”と抗えない“約束”を、頭の片隅に刻んでいた。
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