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「でも、もったいねーな」
「へ?」
「お前の元カレ。損してる」
「なにが……」
長瀬の体温を感じながらの問答は、苦手だ。
心底嫌だと思えたらもっと楽なのに、心のどこかで悪くないと思っている私がいるから、タチが悪い。
長瀬はするり、私の髪を撫でると、呟いた。
「こんなに綺麗で気持ちいいのに。お前の髪」
「っ……」
そういう不意打ち、止めて欲しい。
私の頭に、髪に、触れる長瀬。
どこか楽しそうで、強く止めて欲しいとは言えなくなってしまった。
お互いの呼吸と心臓の音しか聞こえない部屋で、私の髪だけがはらりと揺れる。
気を抜くとまた、眠ってしまいそうな程……それは魅惑的だった。
頭を撫でるのに上手い下手があるなんて知らなかった。
知らないままでも、良かったのに。
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