蝉(セミ)の慟哭

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蝉(セミ)の慟哭

「ええぇ~! もう終わりぃ~!?」 という女の痛哭な叫びに、主題は収斂されてい く。 青春とは、過ぎてしまえば、あっという間なので ある。 「もう終わりぃ~!?」と叫びたくなる儚さだ。 アンタ早過ぎじゃん、と。 つまり私は、二人の束の間の情交を、儚い青春の 比喩として書いたのである。 決して、私が早漏であるわけではない。 繰り返すが、この掌編は私小説ではないのだ。 それにしても青春とは、燦々と降り注ぐ陽光のよ うな明るさと、やりきれないほどの暗さが、混沌 とたぎっている時代であるように思う。 青春とは、すなわち性春であり、様々な欲望の坩 堝であるからに他ならない。 性欲を起点として、創作欲、出世欲、知識欲な ど、多種多様な欲が肉体のうちに煮え立ってい る。 その渾然一体となった得体の知れない欲望を、恥 ずかし気もなく放出しまくらずにおれないのが、 青春なのではなかろうか。 まったく愚かしいものだ。 青春の美しさを賛美するような輩も居るが、私は 青春時代の恋人に再会したいなど、微塵も思わな い。 再三繰り返すが「この早漏野郎!」と罵倒された からではない。 この掌編のヒロイン、千津子に、一緒に東京へ行 くという約束を反故にされたからでもない。 おかげで、上京した私がひとりぼっちで、東京砂 漠を彷徨するはめになったからでもない。 くどいようだが、この掌編は私小説ではなく、虚 構なのだ。 それにしても青春、すなわち性春とは、なんとも 儚いものである。 泣けてくる……。
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