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カラス
走り続ける者 (5/8)
. 暗い想念を振り切るかのように、雄二はピッチを 上げた。
夜明け間際の荒川流域の風景が流れ去ってゆく。 雄二を嘲笑しながら。
巨大な虚無感の塊が、冷気を切り裂いてゆく。
目の前の闇に、紗季の笑顔が浮かんだ。
荒涼とした雄二の心に、一筋の光が射し込んだ。
しかし……
紗季の笑顔は、まるで繊細な飾り皿のように割 れ、虚空に四散した。
雄二は、声にならないうめき声を漏らし、思わず 顔を両手で覆って立ち止まった。
荒い息を吐きながら、次第に明るんでくる空を呆 然と見上げた。
カラスが一羽、明け染めてゆく空を斬るように飛 び、対岸へ消えた。
残された甲高い鳴き声が、雄二の耳の奥で、まる で呪文のようにこだまし続けた。
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