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公立青葉中学三年生の三学期を迎えた晶子は大きな岐路に立っていた。ひとつは、高校に進学するか、就職するか。もう一つは、ひかり学園にとどまるか、学園を出て自立するかであった。担任の旭川次郎先生は成績上位の晶子に進学することを薦めていたが、晶子はいつまでもひかり学園のお世話になるわけにはいかないと思っていた。それに、早く自立して母親のカスミを探したいと思っていた。そして就職しても、定時制高校に通うことで勉強は続けられることもわかっていた。
放課後、進路指導の個別面接が教室であった。晶子は次郎に相対するかたちで面接を受けた。
「朝倉は就職希望だったな」
「はい、先生」
「うむ、就職希望は実は、朝倉だけなんだ」
「そうですか」
「いまは不景気ということもあって中卒の就職先はそれほど多くはないんだ。男子は技能工などいくつかあるのだが、女子はなかなか難しい。それに、朝倉は住み込みが希望だったよな」
「はい、わたしはもう十五歳ですから、いつまでもひかり学園のお世話にはなりたくないんです」
「うむ、自立するという心掛けは良いが、なかなか環境がそれについて行ってないのでね。先生も困っている」
「それに、わたしは定時制の高校にも行きたいんです」
「それは、あまり問題がないな。お前の学力だったらどこでも行けるだろう。校長の推薦があれば入学試験は面接だけというところもある」
「わたしはどこの学校が良いのかよく分からないんですが、先生の推薦校はありますか?」
「そうだな。定時制は都立高校に多いが、私立にもある。大学への進学を考えるなら、進学校の私立に行くのも手だな。俺の推薦校というのであれば、私立桜花高校はどうだろう。ここは、進学校だし、定時制から全日制への移行制度がある。教科書や制服も全日制と同じで、特段の区別がないことが特長だ。ただ、校長推薦者の試験はいまから一か月もないので、早く決めないといけないな」
「わたし、学校は先生のおっしゃる桜花高校にします」
「そうか、それなら、俺が校長の推薦を申請しておこう。受験の手続きなどの書類は職員室にあるから後で取りに来い」
「はい、ありがとうございます」
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