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晶子はひかり学園に帰ると、園長室のドアをノックした。中から、園長の安藤由紀夫の声があって、晶子はドアを開けて中に入った。由紀夫は部屋の右側にある窓の外を眺めて立っていた。
「園長先生、わたしの進路についてお話ししたいことがあります」
「そうか、それならこのソファーに座りなさい」
そう言って、由紀夫の机の前にあるソファーを指差した。そして、由紀夫は窓側を背にしてソファに座った。晶子は間に低テーブルを挟んで由紀夫と向かい合うかたちに座った。
「それで、晶子はやはり進学よりも就職をするのかい?」
「はい、いまは就職を優先して考えています。ただ、学業は続けたいので定時制高校に通いたいと思っています」
「そうか、晶子の人生だ。学校の先生ともよく相談してお前のやりたいことをやりなさい。我々もできるだけの支援をしようと考えているからね」
「ありがとうございます。ただ、就職先の方はなかなか見つからなくて、とりあえず、定時制高校だけは試験が差し迫っているので、それを先に決めたいと思っています。もし、就職が四月までに決まらなければ、中学卒業後もこのひかり学園に置いていただいて、とりあえずはアルバイトから始めたいと考えています」
「うむ、世の中はいま不景気だ。就職はなかなか難しいかもしれないな。いずれにしても、お前の意思を尊重するから、思いっきりやりなさい」
「はい、がんばります」
晶子は由紀夫にガッツポーズをして見せた後、一礼すると、園長室を出て子供部屋に戻った。子供部屋には秋山てるみが窓の側に座ってラジオを聞いていた。てるみは中学一年生になっていた。
「晶子姉ちゃん、お帰り」
「ただいま、てるみちゃん」
「今日は遅かったね」
「うん、学校で進路指導の面接があったので」
「やっぱり、就職してこの学園を出ていくの?」
「うん、そう考えてるけど、なかなか就職先が見つからなくて」
「てるみは、お姉ちゃんにまだこの学園にいて欲しいな」
「ありがとう。園長さんにも話したけど、住み込みの就職先が見つからなかったら、しばらくはこの学園にいさせてもらって、アルバイトを始めようと思っているの」
「学校はどうするの?」
「今日、担任の先生と話して、私立桜花高校の定時制を受けることにしたわ」
「お姉ちゃんは成績が良いから、楽勝だね」
「フフ、そうだと良いんだけど…」
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