第3話 巣立ち

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 夕食後、晶子はひとりで散歩に出た。時刻は七時過ぎだった。晶子はモノや人の放つ熱線の一種である遠赤外線が見える暗視能力があるので、夜道を歩くのは好きだった。道や住宅や塀、立木、それにときおり通りかかる人のどれもが、まるで鈍い光のイルミネーションを点けているように明るく見えた。晶子は商店街通りに近づいたときに、異様な悪寒を感じた。とっさに晶子は傍の電柱の陰に隠れた。 (何だろう。この恐怖感は?)  そう思いながら、辺りを伺うと、通りの反対側からこちら側に向かって歩いてくる白く光る人影が見えた。 (あの光は普通の人間のものとは違うわ)  晶子はそう感じた瞬間、自分が透明人間になる時のことを思い出した。 (あれは、わたしと同じだ。色彩がすべて失われているし、強いオーラが全身から出ているわ。あれはもしかして生霊族?あるいは幽霊?)  その白い人影は晶子が潜んでいる電柱の傍を通り過ぎて商店街に入って行った。晶子が見たその顔は若い男であった。そしてその服装はジーパンにジャンパーを羽織っていたがそれらの色彩もすべて失われていた。 (もし、生霊族なら、お母さんのことが分かるかもしれないわ)  そう思うと、晶子は電柱の陰から出て何食わぬ顔でその白い男の後について歩き出した。白く光る男は晶子に気付いて後ろを振り返ったが、晶子が普通の人間の姿なのを確認して安心したかのように、まっすぐ歩き続けた。商店街はほとんどの店が閉店していたが、スーパーとコンビニ、ハンバーガーチェーン店などの飲食店が開いていた。  その男はコンビニの前で立ち止まった。晶子はその男の横を通って、そのままコンビニに入った。自動ドアが開閉した。晶子が後ろを振り向くとその男が晶子の後について入ってきていた。 (やはり、わたしのすぐ後ろについて入ってきたわ。透明人間だ)  晶子は、自動ドアがひとりで開閉するのを店員に見とがめられるのを避けて、その透明男が晶子と一緒に自動ドアを潜り抜けたのだと確信した。晶子は窓側の雑誌の陳列棚を見回しながら、その男の姿が見える場所に立った。
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