第1章 迷樹の月

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しまった。 必死に洞窟の中を走り抜けながら、素人相手だと油断した自分を悔いる。いまヴィルは、洞窟の奥へ奥へと進んでいるのだ。これはまずい……もし行き止まりになっていたらお終いだ。 だがそんなヴィルの心配とは裏腹に横穴はどんどん広く大きくなっていき、山ひとつくり抜いたのかというほど広い空間を形成していた。振り返りながら走るうちにいつの間にか両脇は深く抉れ、ヴィルの走る道らしい道以外には奥底へ続く深い谷だけが顔を覗かせる。 どこか身を隠す場所がほしいけれど、並んで続く谷間は途切れる気配もなく、ただどこまでも凹凸を繰り返して続いている。 とにかく先へ。 どこに辿り着くかも分からない道を進むのは抵抗があるが、売り飛ばされるのだけは。 ふっ と影が濃くなり、辺りを照らす光がまばらになったことに気付く。 ここに来るまでの神秘的なまでの明るさは、水晶とヒカリゴケによるものだったようだ。ヒカリゴケは特有のエメラルド光を放つが、水晶の発光が赤みを帯びていたことから自身の瞳を思い浮かべる。 お前の目は暗闇に光って恐ろしいと。誰の言葉だったかもう覚えてなどいないが、暗闇を赤く染め上げるこの眼が今は少し、気味悪かった。 「ッッ!!」 不意に足元を襲う浮遊感に背筋が凍る。 踏み出した右足は空中に放り出され、暗い谷底へと---落ちる、その前に左足でなんとか持ち堪え、切り立った崖の上でヴィルは四肢を投げ出した。 ヴィルの進んできた道(もはや岩山の尾根と言ってもいい)もここで終わりらしい。さぁどうしたものか--- 「おい待て!!どこいった!!!」 声が近付いている。振り返っても逃げ道はない。後ろは断崖絶壁。絶体絶命、というやつだ。image=476096352.jpg
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