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「ネロには手出しさせない!ネロはもう一人でやっていける、ここから逃げるなんて簡単だ!」
「そうか、だがお前はどうだクズ!!」
ガンッと音でも聞こえそうなほど強く、彼は蹴りをまともに受けて吹っ飛んだ。やはりあまり高位置にはいないのだろう。腕っぷしも弱いとなれば、もう彼に希望は無いも同然だ。
彼のもとへできるだけ早く、と地面を蹴ったが、彼のいる辺りがぼんやり明るいことに気付く。
これは……
「……魔法?」
間違いなくあの本にあったもの。それも後半のページにあった魔法だ。もちろん見たことはないのだが。
「お前……ッそれをどうやっt」
それは一瞬で、まばたきの間に終わっていた。
集まってきた団員も含め、拠点の一部も丸呑みにして、彼が放つ光は全て吹き飛ばしてしまったのだ。
後にはヴィルと、焼け爛れた剥き出しの岩肌。
拠点の壁も樹も草も人影も、彼でさえも何もない。
巻き込まれた壁材によって、巨大な拠点にしかし人は残っていないようだった。
数々の疑問を残して、ヴィルは突然ひとりになってしまった。
呆然と辺りを見回すうちに夜は明け、陽の光から隠れるようにそそくさとその場を立ち去る。
マントの下には大事な本。両手でしっかり抱え直し、ヴィルは途方に暮れた。
いつかどこかで誰かがやっていた---指先をちろりと舐め、風向きを探る。とにかくどこかへ。何かへ向かって。
あてもなく希望もなく、強制的に始まったひとり旅に、身売りよりはマシかと溜息を吐いてヴィルは歩き出した。
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