第1章 迷樹の月

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   ** 第3話 ** 一際大きな岩の上で、ヴィルはふぅと溜息を吐いた。 「…………お腹すいた」 ヴィルはこれでも立派な悪魔族だ。丸一日食べなくとも平気で動き回れるし、本気を出せば一週間飲まず食わずでもなんてことはない。 ……が、今日がその、7日目、なのである。 「いい加減どっかで補給しとかないとなぁ。…………この森には結構詳しいつもりだったんだけどなぁ~……」 生まれて此の方川など見たことがない。勿論、森の外の話はまた別だ。どんなところへだって、それこそ山奥へも砂漠へも雪山へも行ったことがある。よくよく考えれば、人間より丈夫だからといいように扱き使われていたのだろうけれど。 そんな遠い遠い遠征には幾度となく出かけても、ターゲットになり得る成金のいないこの森を、隈なく探索する機会などはなかった。 「ちょっとマズイかなぁ~こっち側ってどこまで続いてんだろ」 仮にも遙か地平線の彼方までも盗みに行かされた自分である。それが、7日間も歩き続けて森を抜けられないとは。 この森がそこまで膨大だとは考えにくい……が、まぁ何にしろこちら側へ進路をとったことはないので断言はできない。この数年の間見つかる気配もなく聳え立っていたあの拠点も相当な森の奥にあったと思っていたのだが、実はほんの入り口に過ぎず、この森はまだまだ奥深く続いているのだろうか? ……あるいは、 「…………迷った、か……」 それは考えたくない。ぐるぐる同じところを巡っているだなんて、生まれた時からこの森に暮らす身としては、絶対に。 「空を飛べたらいいのになぁ、この森を上から見てみたい」 悪魔族にも羽が生えるのと生えないのがいるのだろう。以前のあの子---目印に、潔白な翼があるのだと教わった神族である筈の少女に、そのような羽が見当たらなかったように。一緒にいた祖父らしきお爺ちゃんには堂々たる翼が生えていたけれど……、盗賊団の誰かが毟ったらしき跡があった。どうやら年老いていても神族の身体で売れない部位は無いとかで、そんなグロテスクで胸糞悪い話は聞きたくなかったので早々に立ち去ったヴィルだった。 自分にも羽が生えていたらよかった、と思う反面、それを目印に襲われることを考えるとやっぱりこれでよかった気もする。 しかし、だ。ヴィルはこれまで食に困ったことなどなかった。故に知らなかった、新たな問題に気付く。
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