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脚の色が、変色している。
これは明らかに人の肌の色ではない。恐らくはエネルギー不足によって悪魔族独特の色味が出てきてしまっているだとか、そういうことなのだろうと結論付ける。問題はこんな脚を誰かに見られるわけにはいかないということ。
「……うわ、結構上まできたなぁ」
徐々に上体へ迫ってくるその変色に嫌悪感丸出しで、ヴィルは何か口にするものを再び探し始める。人っ子ひとり見当たらない森の中だからこそ、こうしていられるのだ。この格好のままで人の目に触れることは、即ち殺されてしまうこと。もし命は助かったとしても、一生閉じ込められた生活など御免だ。
「……あ?」
暫くぶりに見た、鮮やかな赤。向こうの樹の影に、ちらりと。
「りんご……」
久しぶりに食べ物にありつける、というより、これで脚が元に戻るだろうかという期待に溢れて、ヴィルは逸る気持ちを抑えて林檎を一個、枝からもぎ取った。
「あー」
カリッと小気味いい音を立てて、林檎を咀嚼する。甘みもちょうどいい、久しぶりに嚥下する喉が悲鳴を上げるがとてもおいしい。
ごくりと飲み下したその時であった。
背後から不意に飛んできた一本の矢に気付いて、それを寸でで払い落とす。誰だと睨みを利かせるけれど、茂みを見回すうちに視界が眩んできた。これはなんだ、おかしい。足元に落ちた矢をまじまじと見ると、指の跡がくっきりと……なにか塗布されているようだ。
力の入らない脚で踏ん張るヴィルには、直後襲い掛かってきた何かを防ぐことができず意識はただ暗闇へと落ちていった。
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