いつもの世界

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ここ数年で急速に普及した新しい種類の端末だ。 2016年現在までの普及率は98%とすさまじい。 説明するなら、PCを脳と連結した感じ...そんな機器だった。 写真撮影、ネット検索、書き込み、ゲーム、終いにはスキャンや動画処理なんかも思いのままにできる。 もちろん、PCの性能も上がっているため、自由度はPCより低いが... 持ち運べるというのは本当に便利なものだ。 大まかなことは移動中にやってしまい、細かい作業は家で...なんてこともできる。 そして、なにより電脳化の最大のメリットは電子機器と脳を繋げることだ。 電脳化した人間の首筋にはプラグを差すジャックが設けられている。 そこに各種プラグを差すことにより、データリンクが可能になる。 PCとデジカメ、ゲーム機と携帯、のように電脳との情報のやり取りが可能となった。 これは革命的な技術で、戦争、経済、果ては学生生活まで...すべてが一変したのだった。 いつもの通り、なんのことはない授業をこなし、学校を終える。 校門で俺達は落ち合い、家へ向かった。 その日は久しぶりの集まりだった。 酒を飲んだこともあって、騒ぎに騒いだ。 そして... なにか、ひんやりとした感覚に包まれる。 寒さに目が覚めた。 まだ夏だぞ? クーラーを止め忘れたか... ぼんやりとした映像が、頭に入ってくる。 眩しい... あれ... 俺の部屋に蛍光灯なんてあったか? 徐々に視界がはっきりしてきた。 間違いない。 ここは俺の部屋じゃない。 パニックになる。 最初は夢か、と思った。 しかし、電脳のHUDは正常だし(そもそも夢では写し出される訳がない)感覚もリアルだった。 起き上がり、辺りを見回すと、他の4人も倒れていた。 俺は恐怖に駆られ、全員をたたき起こした。 4人ともとりあえず生きていたようで、皆意識を取り戻し起き上がった。 「ここはどこだ?」 俺は訊ねた。 「だれかなにか、覚えてない?」 全員が首を横に振る。 電脳もオフライン状態だ。 俺は部屋を見渡した。 打ちっぱなしのコンクリートで覆われた部屋。 広さは、10畳位だろうか? 扉がひとつあった。 鉄製の、住宅やマンションの玄関のような赤い扉。 調べてみると、扉は開きそうだった。 「おい、この扉...開くぞ」 「ちょっ、開けちゃうの!?」 綾が戸惑う。 俺はゆっくり扉を開いた。
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