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とある月夜。
数多くのビルが建ち並び、夜でも明るく喧騒の絶えることがない都会の街から離れた所にある静かな森林。
その中にひっそりと建つ洋館は既に廃屋と化し、壁中に植物が張り付いていた。
そしてそんな廃屋に、一人佇む少女がいる。
彼女の周囲には赤い液体がペンキのようにぶちまけられている。
廃屋に充満するのは鉄のような鼻をつく匂い。つまるところ、その正体は血だ。
少女はそんな匂いは気にならないとばかりに、手に持つ二本の剣に着いた血を布で拭い、腰に提げた鞘にしまう。
辺りには当然の如く血をぶちまけた物――、即ち少女の餌食となった者の残骸が転がっているが少女は気にも止めず、ただ一点に視線をやり、歩み始める。
少女の視線の先にいるのは少女とそう歳の離れていないであろう青年。
銀髪に赤い瞳が印象的な青年は、全身傷だらけで後ろ手に縛られ、身動きが取れないようであった。
返り血を浴びたであろう彼のその瞳には恐怖などといったものは不思議とない。
――そんな彼に向かって少女は口を開く。
「さて、貴方一人が残った訳だけど。私の仕事は貴方を捕えていた連中の始末であって貴方に関しては何も触れていなかった」
一度言葉をくぎり、少女は青年を見下ろす。
「むしろ貴方の存在は知らなかったと言うべきかしら。取り敢えず、貴方には選択する義務がある」
少女は言う。青年には生きるか死ぬか、自分で選べと。
青年は口を開く。
「俺は自分が誰なのか、俺を捕らえていた奴等が何者なのかもわからない」
少女は静かに耳を傾け、青年は言葉を続ける。
「だけど、いや、だからこそ」
青年はその瞳に強い意志を湛え、その心を言葉にする。
「俺は生きたい」
それが、少女と青年の出会いであった。
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