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 入学から1カ月ほど、わたしはフジコ先生のカウンセリング室に通っていた。  毎日、学校に来るのが辛かった。  理由は……原因不明の虚無感。  思春期の頃、誰もが陥る精神状態だといわれるけれど、わたしは自分のこの胸にぽっかりと口を開けた穴が「よくある事」にされてしまうのがたまらなく嫌だった。  その点、フジコ先生は、わたしを症例の型に当て嵌めたり、自分の経験を長々と語るような事はしなかった。  毎週木曜日の放課後、ミルク入りのコーヒーを入れて、話を聞いてくれる。それだけだった。    先生には「テツヤ」というカレシがいるらしかった。  一度だけ、カウンセリング中に先生の携帯に電話がかかってきた事があった。  部屋の隅で声を押さえて話す先生は、恋する女の子みたいで、とてもかわいく見えた。 「――テツヤもね。じゃ、あとで」  その名前が、なんとなく心に残っていた。  カウンセリングが3週間ほど続いたある時、フジコ先生がわたしに言った。 「放送部に入ってみない?」
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